価格転嫁について国の方針を説明する公取委の山内調査官=24日、松江市北陵町のテクノアークしまね 公益財団法人、しまね産業振興財団は24日、県内の中小企業を対象に、原材料などの高騰を販売価格に転嫁するための知識や交渉術を学んでもらうセミナーを松江市内で開いた。講演に招かれた公正取引委員会の担当者は、下請け企業(受注企業)の価格転嫁を後押しするため、発注企業の優越的地位の乱用に対し、独占禁止法などを厳格に運用する方針を強調した。
 セミナーで講演した公正取引委員会経済取引局の山内宣親調査官は、昨年国が実施した労務費の価格転嫁に関する特別調査の結果を説明。原材料費やエネルギーコストに比べ労務費(人件費)の価格転嫁が進んでいない受注企業の実態を紹介。その理由として労務費上昇分を納入価格に転嫁すると、発注企業から仕事を打ち切られることを恐れて要求さえしていない企業が多いと指摘した。
 労務費の価格転嫁を発注企業に求める場合は、最低賃金や春闘の賃上げ実績など公表されたデータを根拠として示すよう促した。発注企業がそれ以上細かいことを要求してきた場合は、受注企業に負担をかける嫌がらせとも受け取れるという。
 価格転嫁に当たっては発注、受注側双方の協議の場を設けるのが望ましいとし、発注側が協議もなく長期間にわたって価格を据え置いた場合は独禁法違反に当たる、と指摘。「受注企業もコスト上昇の実情を発注企業に示し、コストに見合った納入価格を提示すべきだ」と背中を押した。
 これに対し、参加した企業から「仕事をもらうため、受注企業同士で競争している。発注企業に見積書を比較されたら、値上げした受注企業が競争で負けて競合他社に仕事を奪われてしまう」と懸念する声が出た。
 公取委は自由競争を促す立場にあることから、山内調査官は「自由競争に介入することはできない」と質問に答えたうえで「下請け取引は1次、2次と連なっている。サプライチェlン(下請けを中心とする供給網)全体で価格転嫁を進めていくことが課題」などと応じていた。
 セミナーには県内の企業経営者ら50人が参加。価格転嫁を円滑に進めるために経営コンサルタントの観音寺一嵩NRIJ代表取締役による交渉術の講演も聴いた。

<写真:価格転嫁について国の方針を説明する公取委の山内調査官=24日、松江市北陵町のテクノアークしまね>