株式会社を設立するメリット~法人税と所得税の税率の違い
Lesson9法人で不動産投資をする

法人で不動産投資を行った場合、実際にどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
法人所有で受けられる優遇や個人所有のメリット等と併せて解説していきます。
法人で所有するメリット
まずは法人名義で不動産を所有(投資)することのメリットについて確認していきたいと思います。
具体的には以下のメリットを挙げる事が出来ます。
税金面での優遇
法人化のメリットは何と言っても「節税効果」がある点でしょう。
法人名義での所有と個人名義での所有では、以下の通り税法及び税率に違いがあります。
個人の所得税及び住民税 | ||
---|---|---|
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
〜195万円 | 15% | 0円 |
195万円超〜330万円 | 20% | 97,500円 |
330万円超〜695万円 | 30% | 427,500円 |
695万円超〜900万円 | 33% | 636,000円 |
900万円超〜1,800万円 | 43% | 1,536,000円 |
1,800万円超〜 | 50% | 2,796,000円 |
法人の法人税・住民税・事業税 | |
---|---|
利益 | 税率(※) |
〜400万円 | 22% |
400万円超〜800万円 | 23% |
800万円超 | 36% |
※法人住民税が都道府県毎に異なる為、あくまで参考の数字です。
なお、法人の場合、赤字・黒字に拘わらず最低でも7万円の法人事業税(均等割)が別途必要になりますが、それを差し引いても法人の方が税金は安い事が分かります。
借入時の年齢を気にしなくて良い
銀行や消費者金融は70~75歳の完済を目途に融資を行います。そのため、仮に50歳の場合には20~25年ローンが限度となりますので、月々の支払が高くなり、キャッシュフローがマイナスになる可能性が否定できません。
法人化した場合、「年齢」という概念が無くなりますので、このような心配が無くなります。
相続問題を回避
所有者が亡くなった場合、当該不動産は相続によって相続人へと受け継がれます。
1、2戸程度であれば特に問題ありませんが、不動産が10戸・20戸に及ぶと、それぞれで名義変更手続きを行わなければなりませんので、その手間と登記手数料は莫大なものとなってしまいます。
司法書士に依頼するのが一般的ですが、報酬は1戸辺り8~10万円が相場である事に加え、登録免許税が別途必要です。
法人名義で所有しておけば、仮に代表者が亡くなったとしても、名義変更等の手続きは不要となります。
所得が分離できる
個人で不動産投資を行っている方のほとんどは、投資事業を副業として行っています。
つまり、“メインの所得”“副業としての所得”があり、例えるならばお財布が一緒の状態です。
会社からの収入は個人、不動産から得られる所得は会社へ、という風にこれらの収入をきっちりと分けておけば、管理がしやすく、分かりやすいと言えます。
法人で所有するデメリット
次に、法人で不動産を所有した場合のデメリットについて解説してきたいと思います。
税理士の介入が必須
不動産投資を始めた場合の税申告ですが、個人の場合は所得税の確定申告で対応し、法人は法人税の確定申告(所謂、決算報告)で対応します。
基礎的な枠組みは変わりませんが、法人になると、
申告先が増える(税務署・都税事務所又は県税事務所・市区町村等)
添付書類が増える(株主資本等変動計算書・個別注記表etc)
計算がより複雑に(原価計算等)
と、より煩雑さが増すため、個人で行う事はほぼ不可能です。
そのため税理士に申告を依頼する必要がありますが、顧問契約を締結すると最低でも年間万円、申告のみでも15万円は掛かります。
また、個人的な見解ですが、税務署は個人にはとても親切かつ丁寧で、分からない事があれば優しく教えてくれますが、法人になると非常に冷たい印象があります。
収益が自由に使えない
法人化すると、不動産収入は会社の収益となります。そのため、当該収益を個人で使うのであれば、法人からの給与(役員報酬)や配当で対応する必要がある上に、これらの決議は株主同士の話し合い(株主総会)によらなければなりません。
株や持ち分を一人が所有している状態であれば問題が起こる事はほぼありませんが、例えば奥様と株を半分ずつ保有しているような場合には、意見が対立してしまうと自由にお金を動かせなくなってしまう可能性があります。
あくまで「法人のお金」という認識でいるようにしましょう。
メリット・デメリットまとめ
メリット | デメリット | |
---|---|---|
個人名義 |
申告が比較的楽 収益を自由に使える 維持コスト等は不要 |
相続問題が発生する 税金が高い |
法人名義 |
税制面で優遇 何歳でも借入が可能 相続問題をクリアに出来る 所得が分離出来る |
設立及び維持にコストが掛かる 株主総会(社員総会)等での決議決定が必要 収益を自由に使えない |
「法人化」は良い事ばかりではないようですね。不動産投資を始める前に両者のメリット・デメリットをしっかりと把握し、法人化のタイミングを見誤らないようにしましょう。
法人設立の費用や手続き
個人(自然人)とは違い、法人はその名の通り“法によって人格を付与された存在”です。
そのため、新たに設立する場合には、当然ですが書類の作成及び手続きが必要になります。
日本には様々な種類の法人が存在しておりますが、今回は「利益を目的とした法人」である株式会社及び合同会社の設立を前提にご紹介して行きたいと思います。
費用や手続きについて予め確認しておきましょう。
流れ・用意するもの・費用
法人設立までの流れ・費用・必要書類は以下の通りです。
流れ
設立は以下の流れで行われます。
①書類の作成
②管轄法務局への申請
③登記の審査
④申請書類の補正・追加提出等
⑤登記完了
必要書類
株式会社・合同会社共に以下の書類が必ず必要になります。
設立登記申請書
定款
発起人の同意書
本店所在地決定書(※省略可)
設立時代表取締役を選定したことを証する書面(※省略可)
設立時役員の就任承諾書
役員の印鑑証明書
払込を証する書面
資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書(※省略可)
場合によっては上記の他、書類が必要になる場合があります。
費用
株式会社…20万2千円(登録免許税15万円・定款認証代約5万2千円)
合同会社…6万円(登録免許税6万円)
上記が必ず必要になります。
なお、司法書士に依頼する場合、上記諸費用を含め株式会社は30万円前後、合同会社で15万円前後のコストが掛かります。
合同会社はコスパが良く、お奨め
「合同会社」は、平成17年の会社法制定により新たに定められた法人形態です。
会社と言えば株式会社が有名ですが、株式会社と同様の法人格が取得できますので、小規模な事業者、個人事業主規模での経営者等からの人気が高まっています。
株式会社と比べて設立の費用が安いため、“とりあえず法人化したい”という場合にお奨めです。
ただし、株式会社違って株式と経営を分離する事が出来ず、持分(株式会社で云う所の株式)を持っている人は、必ず役員にならなければなりません。
宅建業許可は必要?
宅建業許可は、売買・賃貸・仲介等を不特定多数の人に対し反復継続して行うケース(業として行う場合)に限られますので、自身が所有する物件を賃貸する場合は不要です。
従って、法人化したからといって宅建業許可が必要になる訳ではありません。
- 結 論
-
法人化する目的は主に税制面の優遇を受けるため!
法人化すると諸所手続きが煩雑になるというデメリットも!
収益を自由に使えなくなる事に注意!